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「ドライブ」 ジェイムズ・サリス

 映画のスタント・ドライバーが主人公の物語。
 その運転能力をかわれて犯罪に加わっていき、タフな人生を歩んでいくという、まあ一口では説明しにくい内容の小説なのだけど。
 200ページもない、いまではかなり薄い方に分類される文庫本だ。

 セクション毎に時間が前後に行ったり来たりするので、全体の構成がややつかみにくかった。
 冒頭に緊迫したシーンを持ってきて、そこへ至る過程は、と最初に戻る構成とか、昔の回想シーンがときどき入るというのはよくあるけど、このストーリーは、それにもまして時間がみだれとんでいる。

 しかし、それについては、巻末の訳者あとがきで、見事に解説されていた。
 過去の挿話がいりみだれるのは、主人公の積み重なった過去を、読者がバックストーリーとしてつかんでいくためらしい。
 話がとんでいるのは、「物語をエッセンスにまで削ぎ落としているから」だそうだ。話の流れからは当然あるべきシーンもあえて書かないことにより、物語を“真髄”のみにしている。

 これまでに読んだあとがきの中でも、最も要を得たあとがきだと思った。
 欠点かと思えたところをフォローするにもまして、その作品の長所として見事に説明しきっている。
 それでいて長すぎもせず、表現は簡潔で無駄がない。この作品のスタイルにもふさわしい、素晴らしいあとがきだ。
 訳者:鈴木恵

 最近は千円を超える文庫本もあるし、本屋で平積みになっている表紙と帯を見て、おもしろそうかなと手に取ると、あまりに厚みがあったので、元に戻すということもある。
 この「ドライブ」は、そういう分厚い小説を書いている作家たちに、ぜひ読んで勉強してもらいたい教科書だ。

 ところで、この小説のタイトル。「ドライブ」というよりは「ドライバー」の方が合ってるんじゃないかと思えた。ひとりのプロドライバーの生き様を描いた物語なのだから。
 まあ、エッセンスにまで削ぎ落とすという観点からすると、語尾の「er」も削ぎ落としたのかもしれないけども。

 楽しいドライブをするようなシーンは出てこないし、かなりダークな物語だった。ドライブが休日の趣味という人よりも、車の運転が人生そのものというような人向けかもしれない。

「ドライブ」 ジェイムズ・サリス
ハヤカワ・ミステリ文庫 630円

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